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フォトエッセイ「大平街道を自転車で行く」

フォトエッセイ「大平街道を自転車で行く」

お送りするレポーターは、飯田と遠山郷の 大ファン・白鳥和也(自転車文学研究室)です。

四 友と、晩秋の絶景をゆく

翌年、2006年の秋。またしても大平へ。
飯田峠、大平宿、大平峠の素晴らしい風情を、ぜひとも自分の
ツーリング仲間にも紹介したくなったし、紅葉の大平街道も
辿ってみたかったのだ。それには、やっぱり、
気分の高まる泊りの旅がいい。仲間もおおいに乗り気だった。
かくして、とんとん拍子で話は進み、
11月3日、首都圏2名、静岡2名のツアー一行は、
飯田線辰野駅に輪行で集合して、午前11時に出発したのであった。
初日は、飯田の旧市街地に泊るので、まずはそこまで、
自転車でこそ面白いルートを辿った。

伊那までは止むを得ず交通量の多い道を下ったが、
ローメンで昼食後は、東春近という辺りを探訪してから、
天竜川東側の空いた道を辿る。飯島町まで来たら、
日曽利橋を渡り、飯田線飯島駅の横を通過して、
今度は旧三州街道の県道15号線に入る。そのまま下り続けると
バイパスになってしまうので、途中から逸れて、
旧三州街道を辿る。飯田の友人二人、静岡から飯田まで車で来た
仲間一人もすでに合流し、総勢七人のパーティになった。
りんごの実がたわわだ。休憩していたら、
直売店の人が少しわけてくれた。ありがとう。
日が暮れかかった頃に、野底川を渡って飯田の旧市街に入る。
お宿は、並木通りの和風ホテル、ホテル吉村だ。自転車を奥まで
入れられたので、皆ご満悦。料理も飯田らしいメニューで旨かった。

翌朝は曇天のような天気。秋の飯田でよくある天気だ。
川霧が上空まで出ている。川霧が出る日は、逆に晴れるのだ。
今日は大平峠までは、プロロードレースの世界で国際的に活躍中の
福島晋一選手と康司選手のご兄弟と同行することになっている。
気さくなお二人に、こちらもほっとする。
軽く市街地を流してから、峠に向う。福島選手をはじめとする
ロードバイク隊はぜんぜんスピードが違うから、先に行ってもらう。
あっという間に彼らの姿は視界から消えた。

ランドナーを中心としたわれらツーリングのメンバーは、
さらに仲間が増えているが、あせらず、じわじわ上ってゆく。
途中約1名がパンク。リムテープの劣化が原因だったので、
非常用に巻いておいたガムテープを代わりに貼って、なんとか対応。
そのうちに、明るくなってくる。霧が晴れてきたのだ。
メンバーも10名近くいるし、ともかくゆっくり上る。

松川を渡る橋のところでも、小休止。
止まるとすぐに自転車談義になってしまうのが、おかしい。
高度が上がってゆくと、季節も先に進む。
紅葉の色はますます濃くなり、下界とまったく違う空気に
峠道が染まっていることをあらためて知る。

路傍にお地蔵さんがあるのを見つけ、またまた停車。
最初に走ったときも気付いていたのだが、
秋深まりゆくこの日には、なんだかとりわけ心に染みる。合掌。
しばらく先で、飯田の街の方を振り返ると、まだそこには
朝の川霧が天井のように街のある谷間の上に広がっていた。

飯田峠が近づくに従い、路肩には落葉が多くなる。
極彩色に彩られた木々は、まるで異世界のようだ。
とはいえ、ぼちぼちお腹も空いてきた。

そして峠。飯田峠。冷涼な大気のなかで少しだけ休憩をとり、
大平宿へと下る。落葉松はすっかり紅葉し、
もうここは冬の世界の入口だ。
空地で火に気をつけてお湯を沸かし、昼食にする。
道具を運んでくれた飯田の仲間には手間をかけたけど、
やっぱり、あったかい昼食があって良かった。
珈琲を入れ、しばし、行く秋の高原の一刻を愉しむ。
空はまるで作りもののように青く透明だ。
対照的な銀杏の木の黄色が、目と心に染み入る。

昼食後、旧い民家が並ぶあたりに、あらためて立寄る。
何度か目にしてきた風景だが、
晴れ渡った11月初旬の今日は、
これまでになく透明な空気感をたたえている。
自転車で訪れることのできる最後の週だったかもしれない。

保存された民家の前で、旅の自転車を並べる。
古の人々の苦労には遠く及ばないだろうが、
二日間走ってここに至り、そうして出会う風景の
かけがえのなさを思う。
ずっと先に着いたロード隊の姿は見当たらない。
われわれが野外ランチをとっている間に、
大平宿でただひとつの食堂、「お休み処 大平」で
リーズナブルな焼肉定食を平らげ、
体が冷えないうちに下ってしまったらしい。
飯田市街に戻る仲間に別れを告げ、
輪行組を中心とした数名だけが、大平峠へと向う。

手を振って別れたそのすぐ先から、静寂の世界になる。
まもなく、大平宿も、凍てつきのなかに閉ざされる。
吐く息が白い。陽は傾き、日陰はもう冷気だ。
分れ道のところで写真を撮っているうちに、仲間は先行した。
おっとり刀で、じわじわ、大平峠への最後の行程を上りつめる。

大平峠だ。「雪避けトンネル」の前で、皆待ってくれていた。
写真を撮る。日陰なので寒い。下りに備えて、着込む。
大平峠は、木曾峠とも呼ばれるが、木曾へ下る今日は、
とりわけその名前が心に響く。

わずか100mほどの、不思議な格好のトンネルだけれど、
この「雪避けトンネル」の存在を知っている人は、
ベテランサイクリストには少なくないはず。
そういう思いがあるせいか、このトンネルを越えてゆくのは
何かちょっと儀式めいているような気さえする。
仲間が先行するのを撮影してから、私も越える。

トンネルの向こう側、南木曽町側でも、ワンカット撮影。
とたんに何やら、光線の具合が変わった感じがする。
飯田に戻る一人に見送られて下り始めるが、
路肩には、スリップしそうな落葉がたまっていて剣呑だ。
それもあって、カーブで現れる対向の車には特に緊張する。

木曾見茶屋のところで小休止。連休とあって混んでいる。
茶屋に寄る余裕はなかったけれど、
2005年に見ることのできなかった絶景の眺めが、存分に楽しめた。
まだまだ下りは長く、車もやはりふだんよりは多そうだ。落葉もある。
安全第一を仲間三人と再確認し、車間を空けて出発する。
われわれは全員ヘルメット装着のランドナー乗りなのだ。

緊張感のある長いダウンヒルは、やがて国道256号に出る。
そこでサプライズがあった。
先行した仲間といっしょにわれわれを待っていてくれたのは、
なんと、飯田を拠点とするトップレベルのプロロード選手、
福島晋一選手、康司選手のご兄弟。
ロード隊は大平宿から飯田へ引き返したのだが、彼らは練習のために
木曾に下って走り、これからまた清内路峠を越えて飯田に帰ると言う。
すごいパワーだ。(普通の体力の人は真似しないように)
早速、記念撮影をお願いしたのは言うまでもない。
晋一さん、康司さん、どうもありがとう。

妻籠まで、まだなお下り坂は続く。
この国道256号との交差点から先は、2005年の9月に走ることが
できなかった旧道を辿る。これも今回の重要なテーマだ。
国道を横断して、早速旧道に入るが、いや、実に実に
その佇まいの素晴らしいこと。峠道の世界から、
一点して、山里の良い雰囲気が連続する。
ため息の出るような美しい道と里だ。

もう夕刻も近く、あまりのんびりしてはいられないのだが、
蘭(あららぎ)のあたりで、小休止する。
特別観光的に仕立てられてなどいないが、
往時の街道の佇まいが、ごく自然に残っていて好ましい。
ある旅館の傍らで写真を撮ったが、
そこは自転車の旅人が泊まることも多いということを、後で教えられた。

途中から旧道はまた、国道256号に合流する。着込んでいるのに
さっきからかなり冷えている。手も凍えそうだ。
妻籠に着いたらもう夕暮れ近い。旧中山道を回る時間はないので、
いったん国道19号に出て、南木曽駅を目指す。
そこから輪行するのだ。
その晩は、中津川駅で、そのまま静岡に戻る仲間を
見送った後、輪行袋かついで歩いて、駅近くの旅館に投宿した。
やれやれ、無事峠も越えたね、と三人で祝杯を上げる。
味噌鍋が、妙に旨かった。


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