お送りするレポーターは、飯田と遠山郷の 大ファン・白鳥和也(自転車文学研究室)です。
地元では案外知られていないことなのだが、
飯田と南木曽を結ぶ「大平街道」は、半世紀近く前から
自転車の旅人、シクロツーリストには知られた存在だった。
1970年代、まだこの道が未舗装だった頃から、
太いタイヤを履いた旅行用自転車で、
彼らは、この山岳上級者向けルートを辿ったのである。
大平街道は木曾街道とも呼ばれ、その白眉は、
飯田峠、大平峠、そしてこの二つの峠にはさまれた
大平宿(おおだいらじゅく)だ。
例年、この街道は11月から凍結が始まり、
5月の連休の前まで、冬季閉鎖される。
その期間、大平宿は無人の世界となる。
この道を辿ったシクロツーリストが何人いたのか、 誰一人として、正確には知ることができない。 ただ、確かなことがひとつある。 大平街道を自転車で辿った人々は、生涯忘れられぬような 峠道の記憶を、自己の中に抱えて生きてゆく。 この街道には、古の人々の労苦と哀しみと歓びが、 今なお木霊のように息づいていて、 それが、私たちの魂の奥底を揺るがすのだ。 掛け値なしに、日本を代表する峠道のひとつと言っていいだろう。